「栗菓匠 和泉」の創業は、昭和10年(1935年)。現在の店主の祖父がはじめた和洋菓子店がスタートで、お菓子以外にタバコや宝くじなども扱うお店だったという。地域の人々の頼りになるお店として繁盛し自然に和菓子中心の店舗へ変換していった。
2代目にあたる父は東京で洋菓子修行を終えて家業に参画し、一時期は祖父の和菓子と父の洋菓子の2本柱だったのだそうだ。3代目となるのが現在の店主である伊藤幸彦さん。岐阜市の和菓子の名店に修行に出て、そこで栗のお菓子を基礎からしっかり学び、技術を身につけて戻ってきたこともあり、家業を継いでからは積極的に栗菓子の種類を増やしていった。
祖父の和菓子づくりを子どもの頃から見てきた伊藤さんは、和菓子は「あん」が命であることや、基本に忠実に仕事をすることの大切さを学んだ。そこで自身の経験と技術を踏まえ、栗菓子に強い和菓子店であることを店名にも思い切って表記しようと決意し、それまでの「和泉製菓本舗」という店名から、現在の「栗菓匠 和泉」に変更する。
祖父が亡くなり、父と2人で和菓子店を営んでいた時はぶつかりもしたそうだが、そこは職人同士、違いにリスペクトし合って、現在のお店へとつながっていく。3年前には店舗を建て直して新オープンさせ、現在は伊藤さんご夫婦とスタッフで地域に愛される和菓子店を営んでいる。
商品群は、栗菓子がメインだが、もちろん秋以外にも数多くの和菓子がラインアップされる。いずれもひとつひとつが丁寧な手作りの美味しい和菓子。それは創業以来ずっと変わることのないスピリットなのである。
地下鉄「今池」駅を北東方向に出ると、ななめに通る道がある。そのまま進むと、道の真ん中に桜が並木になって見えてくるが、それが、「すいどうみち緑道」と呼ばれる散策路だ。桜の時期にはお花見を目当てに訪れる人が多く、特にライトアップされているわけではないが、実は夜桜の名所なのだとか。「今池はネオンや看板で派手な街だけど、今池の北方向は、落ち着いた住宅街。すいどうみち緑道は、閑静な街並みにあるとっておきの場所なんです」と、栗菓匠 和泉の伊藤幸彦さん。
すいどうみち緑道の先には、東山給水塔があり、そこから北に上がる道は、天満緑道と呼ばれる道が。上野天満宮や幾つかのお寺もあり、散策にはぴったりの道だ。
栗菓匠 和泉の東側には広大な千種公園もあり、お店で和菓子を買ったあとは、お散歩して周辺を歩き風景を楽しむのも一興。確かに、今池駅周辺の繁華なイメージとは違って、北側は落ち着いた住宅街が広がる。春はお花見が楽しみな場所でもあり、それ以外の季節でも、普段着の街の表情を眺めながら、公園で和菓子を頬張って、和菓子ピクニックにトライしてみてはいかがだろう。