寛永11年(1634年)、尾張徳川家初代藩主・徳川義直の治世の時、摂州大坂から名古屋にやってきたのが、両口屋是清の創業者である猿屋三郎右衛門である。いつの日か尾張藩の御用達になりたいという夢を持って、お菓子屋を始めた。そしてその夢は、二代・三郎兵衛によって叶えられ、貞享3年(1686年)には二代尾張藩主・徳川光友より「御菓子所 両口屋是清」の表看板を賜ることとなった。
三代喜十郎の時代になると、藩の金銀や調度の出納を司る小納戸役のお菓子御用を一軒で務める。この時から、両口屋是清は代々の当主に喜十郎の名前を用いるようになった。八代喜十郎の時には、名古屋東照宮二百年御遠忌の御菓子御用を務め、尾張藩の御用菓子屋の老舗として他藩からもお菓子を求めに来る人があったという。
その後、廃藩置県や世界大戦など激動の時代の中でも着実に信用を培い、名古屋の老舗和菓子店としての地位を確立する。十一代喜十郎は昭和9年に株式会社化。現在も定番の人気商品「二人静」を考案し、アイデアマンとして数々の新商品を生み出した。昭和天皇に献上した「旅まくら」を作ったのも十一代である。
十二代になると、東京での新スタイル店舗のオープン、当時は画期的と話題になったひとくちサイズの「ささらがた」や「アイス千なり」の発売、明治村茶会での「蜘蛛の糸」の制作など、老舗ののれんを守りながらも果敢に新しいジャンルにも挑戦。歴史の長さだけでなく、お菓子の種類や店舗数なども含めて、名古屋に両口屋是清あり、と誰もが認める和菓子の企業体である。
住所:名古屋市千種区東山通4-4-1
TEL:052-782-1115
営業時間:9:00〜17:00(喫茶 12:00~16:30)
定休日:木曜日
URL:https://ryoguchiya-korekiyo.co.jp/
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東山通を車で走っていると、あるいは東山公園駅から歩いていくと、三角形の屋根と大きく張り出したひさしが特徴的な建物が目に入る。2013年にオープンした東山店で、建築家・隈研吾さんの設計デザインによる建物である。
店舗設計を依頼した際に、隈氏は両口屋是清の店舗を見学に来たという。和菓子屋の製造と販売の現場を見て、インスピレーションが沸いたのは、製造現場にある蒸し器のセイロ。木を重ねる構造のセイロにヒントを得て、東山店を檜を使った空間へと仕上げていったのだとか。建物の屋根は三角形の金属葺きで、外から見るとその形がよく目立つので印象に残るが、近づくと、檜のルーバーを使った落ち着いた木の空間が広がる。さらに、ガラス越しには奥に庭木も見えて、高いデザイン性を知るにつれ、この建物自体をじっくり見学したくなるだろう。
2階のカフェ「喜蝸庵」に上がってみると、ダイナミックにデザインされたひさしがよくわかる。両口屋是清のお菓子とコーヒーや抹茶などが楽しめるので、この建築を見学しながら甘味も味わえるというわけだ。お菓子を求めるなら、ちょっと時間に余裕をもって出掛けて、有名建築家による和菓子店の設計デザインを心ゆくまで体感するというのも、面白い時間の過ごし方ではないだろうか。