ダイナゴンと片仮名で書かれたロゴマークを見て、懐かしいと感じる人も多いのではないだろうか。手土産としてよく使われてきたお菓子なので、子どもの頃に食べた経験が記憶に残っているに違いない。
ダイナゴンの軽やかな味わいは、洋菓子でもなく和菓子でもない、なんとも不思議な食感の焼き菓子である。今回、ダイナゴンのルーツを伺って、その不思議な感覚にとらわれた理由がわかった。
ダイナゴンが誕生したのは、昭和41年(1966年)。面白いことを一緒にやろう!と、3軒の和菓子屋の息子が3人集まって作り上げた会社だった。3人は名古屋生菓子組合青年会の仲間。家業の和菓子屋を継ぐだけにとどまらず、既存店舗の枠を超えて、新しいことをやってみよう、と取り組んだのである。
そして、和菓子の技術を生かして、洋菓子の要素を組み入れ、今までになかった商品を作り上げよう!と意気揚々と開発したのが、和風カステラの「ダイナゴン」だ。順調に生産量も増え、会社も安定期を迎えた頃、青年だった3人も次の世代へとバトンを渡すタイミングになった。そして、3軒のうちの1軒の跡取り息子が現在の会社を受け継いでいる。
商品開発で、和菓子屋の矜持のひとつとして大切にしたのが、小豆の食感を大切にするということだった。カステラは一般的に卵の黄身を使う。ところがダイナゴンでは、小豆の味わいをしっかりと感じて欲しいという思いから、黄身は使わずに卵白だけでカステラ生地を作っている。そして卵白を混ぜるタイミングが仕上がりを左右するため、卵白を混ぜるのは機械に頼らず必ず手作業で丁寧に。小豆の味と風味を生かしたカステラを焼く。和菓子屋の技術と発想を駆使して、熱き思いで作られたスピリットは、今も変わらずに受け継がれている。
ダイナゴンのある建物は、矢田川のすぐ北側に佇んでいる。周りには目印になる大きな建物などなく、ごく普通の住宅街。どこかの家の窓から食事の支度をする匂いを感じたかと思えば、お天気が良ければ洗濯物が風になびく風景も。なんとも心地よい空気感に包まれる。ダイナゴンを目指して自転車や車で向かうと、守山区の日常の街の姿に出合うことができるのだ。
ダイナゴンでお目当てのお菓子を買ったら、矢田川を南に渡ってみよう。名古屋市営の都市公園であり運動公園である「千代田橋緑地」が広がっている。ここには野球場やテニスコート、公園、ランニングコースやサイクリングコースが整備されていて、市民の憩いの場所となっている。取材で出掛けた日も、マウンテンバイクを乗りこなすライダーから、いわゆるママチャリでお買い物帰りに寄り道している人まで、それぞれに好きな場所を見つけてのんびりと時間を過ごすシーンに出くわした。
川辺というのは、人の心を落ち着かせたり、ワクワクさせたり、ノスタルジーにひたらせたりする効果があるのだろうか。川の流れを眺めながら、千代田橋緑地のベンチに座って、ダイナゴンのお菓子でティーブレイクしていたら、それまで心のどこかにあったモヤモヤが、帰る頃にはスッキリした心持ちになっていた。